ニュースなどでよく聞くタックスヘイブン。実際に200万を超えるグローバル企業がタックスヘイブンに登記しており、現在のグローバル化の流れの中では切っても切り離せない存在となっています。
然しタックスヘイブンという用語は聞くものの具体的にどのような特徴があるのかを答えられる人はいないのではないでしょうか。
せいぜい税率が低い又はゼロの地域という回答に留まると思います。
無理もありません、そもそもタックスヘイブンを利用しようと思う人は、先進国の超富裕層やグローバル企業、投資ファンドが殆どである為、一般の人は考える必要も考えることもないためです。
またタックスヘイブンに関する確りとした統一された定義も存在しません。
米財務省のゴードン報告書も「タックスヘイブンとしての国の識別を可能とする唯一の客観テキストは存在しない」としております
今回はタックスヘイブンとは何なのか?ということについて書いていきたいと思います。
Contents
タックスヘイブンの仕組みその①:低税率又は無税
これは皆さんがご認識の通りであると思います。ではここで問題となってくるのが、無税のタックスヘイブンはどのように歳入を得ているのかということです。
歳入を得ることなく、適切に国家を運営していくことは出来ません。タックスヘイブンは主に以下の三つの手法で収入を得ています。
タックスヘイブンの収入①:諸経費・手数料という形での徴収
全てのタックスヘイブンは、登記する企業に対して登記料や年間手数料を要求します。
また地元の「ダミー」の取締役を維持する為の要件、つまり現地人を雇って小さな現地事務所を維持することを求めるタックスヘイブンもあります。
問題はこのライセンス料や費用なのですが、例でいうとバヌアツ共和国では企業登記に150USD、企業登記簿の維持に毎年300USDが要求されます。またマン島では年間320GBP(約5万円)が要求されています。
少なくない??と思われた方もいらっしゃると思いますが、タックスヘイブンは小さな国や小さな島に多く存在しており、この金額が積み重なれば十分に財政を賄うことが可能になるのです。
企業側やファンド側としても、年間たった5万円程度の費用を払うことで、税金が免除されるのであれば、これほどメリットのあることはなく、Win-Winの関係であると言えます
タックスヘイブンの収入②:自国より大きな国の助成金
タックスヘイブンの中にはイギリス領島の大国の属領として存在しているところが多く存在します。英領、ジャージー島、ガーンジー島、マン島などです。
中でもマン島はイギリス政府から年2億ポンド(約300億円)に上る助成金を獲得して域内の大きな収入の柱としています。
タックスヘイブンの収入③:住民からの市税
これはモナコが最も良い例です。大半の国では所得税は累進課税を取っています。日本も収入が多ければ多いほど税率が高くなるという仕組みになっていますね。
然しモナコではなんと逆進税という形態の税率を取っています。これは収入が増えれば増えるほど、税率が低くなるという制度です。
その為、世界の超富裕層はモナコの住人となり、元々の国で徴収される税率よりも圧倒的に少ない税をモナコに納めることで税の節約を行っているのです。
モナコとしても税が低くても、金額が莫大なので大きな歳入をえることが出来ており、これもWin-Winの関係が構築されています。
仕組み①のまとめ
タックスヘイブンも様々な手法で歳入を得て運営していますが、非居住者が支払う費用は登記料と手数料、場合によっては事務所の維持費となります。
これらの費用は非常に安価で、タックスヘイブンに登記を行うことで、回避できる租税に比べると非常に小さい金額に留まります。
タックスヘイブンの仕組みその②:秘密保持条項
これはあまり認識されていませんが、タックスヘイブンの大きな特徴となります。タックスヘイブンのことを「守秘法域」と呼ぶのを好む人もいるほどです。
この秘密保持は大きく分けて二つあります。
タックスヘイブンの秘密保持条項①:銀行守秘法
通常の国、例えば英国の全ての銀行は保有する全口座に関する受取利息を英歳入関税局に報告することが義務づけています。
つまり銀行と口座所有者の間で秘密保持契約を結んでいるが、実際には銀行は当局に口座情報を報告しているということになっているのです。
然しタックスヘイブンでは銀行守秘法があります。
銀行守秘法は所有権の同意なくして、銀行が口座の存在や口座情報を開示した場合は刑事処分とすることで銀行と顧客の間の秘密保持法に関する通常の契約上の義務を法にして強化したものです。
要はタックスヘイブンにある銀行の口座についてそれが誰のものであるか、口座情報がどのようなものかについて、所有者の同意なしに開示すること法律で禁止しているのです。銀行の情報を政府が入手することも固く禁止されています。
なのでパナマ文書というリークがあるまで、そこに誰の口座があるか全く分からなかったのです。富裕層としては自分の保有口座情報を知られたくありませんので、タックスヘイブンの大きな価値の一つとなっています。
タックスヘイブンの秘密保持条項②:緩い規制
若干秘密条項とはことなるが、不透明性を増幅しているという点で緩い規制があります。規制機関は意図的に怠けて、企業に対して何も質問をしてきません。
当然といえば当然ですね、登記されている企業が、その国のキャパシティに対して多すぎるので対応できないのです。
タックスヘイブンの仕組みその③:簡単な法人設立
タックスヘイブンでは簡単に法人を設立することができ、尚且つ法人化の際に匿名性が保証されます。
企業はパッケージのように簡単に法人化することが可能で、更にタックスヘイブンは金融機関や企業が領域内に実在すること要求しません。タックスヘイブンとしても登記してくれればくれるだけ、登記料と手数料を徴収することができるので、簡素にするメリットしかないですよね。
タックスヘイブンの定義
冒頭でも申し上げました通り、タックスヘイブンの統一された定義はありません。
この理由は世界の殆どの国が特定の産業向けに優遇税制を引き、税制上のインセンティブを与えており、タックスヘイブンとの線引きが難しいことと。
次に上で述べた守秘法域に関しても、世界の大多数の国が多様な秘密保持条項を提供している為、これをもってタックスヘイブンと明確に定義することが出来ない為です。
以上のことから各当局がタックスヘイブンと見なしている国にはずれがあり、ある国ではタックスヘイブンと認識しているが、別の国では認識していないという事態となっています。
全ての当局でタックスヘイブンと見做されているのは、バハマ、バミューダ、ケイマン諸島、ガーンジー島、ジャージー島、マルタ島に限られます。
一応これまでの説明から、このサイトではタックスヘイブンを、以下のように定義しておきます。
「租税や規制を回避する為に、非居住者が行う事業について簡便化する為に法を整備し、また登記した事業体が税的な利益を得ていることを曖昧にするために秘密保持を法律として提供する国」
自分で言っておきながら、曖昧な表現だなと思わざるを得ないのですが、各当局でも認識が違うものなので致し方ないですね。
タックスヘイブンの利用は問題?犯罪なのか?
ではタックスヘイブンを利用することは犯罪なのかという疑問が浮かんでくると思います。
もしタックスヘイブンの利用が犯罪であったとしたら世界の殆どのグローバル企業がお取りつぶしになってしまいますので、そんなことはありません。
寧ろグローバル企業や超富裕層が利用しているということが、タックスヘイブンの利用自体が有効な手段であることを物語っています。